はじめに
「組立なんて生産部門が考えること」と思ったことはありませんか?実は、組立性は設計段階でほとんど決まります。設計者が組立のしやすさを考慮していなければ、製造現場でどれだけ工夫しても限界があります。組立性の良し悪しは、単に「組み立てやすいかどうか」だけの問題ではありません。組立時間や製造コスト、品質、納期、さらには作業者の負担にも影響します。本記事では、私自身の失敗経験も交えながら、設計者が知っておきたい組立性の考え方について紹介します。
組立性とは?
組立性とは、工場で部品を組み立てて製品を完成させる際に、組立作業がしやすいかどうかということです。組立性が悪いと、単に「組みにくい」というだけではありません。生産性や品質、作業者の負担など、さまざまなところに影響します。
組立時間が長くなる
部品が取り付けにくかったり、作業姿勢が悪かったりすると、1台あたりの組立時間が増え、生産性が低下します。
品質のばらつきが増える
作業者によって組立方法や力加減が変わり、品質に差が生じやすくなります。
組立ミスが起きやすい
部品の向きや取り付け位置を間違えやすい構造では、組み間違いや手戻りが発生します。
作業者の負担が増える
無理な姿勢や重い部品の取り扱いは、疲労の蓄積や作業効率の低下につながります。
作業者を危険にさらす場合がある
指を挟みやすい構造や、不安定な姿勢での作業は、労働災害の原因になることがあります。
治具や設備が必要になる
人の手だけでは組み立てられず、専用治具や大型設備が必要になる場合があります。
このように、組立性は「現場で組み立てやすいか」という一つの視点だけではなく、コスト・品質・生産性・安全性など、製品づくり全体に関わる重要な設計要素です。
なぜ設計者が考える必要があるのか
設計はモノづくりの上流工程です。設計段階で決めた構造や部品の配置は、製造現場で簡単に変更できるものではありません。そのため、設計者は「図面どおりに作れるか」だけでなく、「実際に現場で組み立てやすいか」まで考えて設計する必要があります。
例えば、図面上では問題なく組み立てられる構造でも、実際の現場で工具が入りにくかったり、無理な姿勢での作業が必要だったりすれば、組立時間が増え、製造コストや納期にも影響します。
もちろん、組立性だけを優先すればよいわけではありません。前回の記事「良い設計とは?」でも紹介したように、設計では性能、コスト、安全性、メンテナンス性など、さまざまな要求を同時に満たす必要があります。
だからこそ設計者は、要求仕様とのバランスを取りながら、現場で無理なく、確実に組み立てられるレベルを目指すことが重要だと考えています。
組立性に関する失敗談
組立性について、考慮が甘く、製造ラインを困らせた案件を紹介します。
事例1:部品同士の隙間がギリギリ
機器同士の狭い隙間に油圧ホースを通すレイアウトを採用していました。ホースと機器の干渉を避けるため、ホースの組付け角度を1度単位で指定していましたが、実際には機器やホースの寸法ばらつきにより、製品ごとに現場で調整が必要でした。
図面どおりに組み付けることができず、毎回調整が発生するため、作業者によって組付け状態にもばらつきが生じました。試作機の段階で問題が判明したものの、すでに機器レイアウトは確定しており、大きな設計変更はできませんでした。
設計上はホースと機器の隙間が確保されているため問題ないと考えていましたが、**実際の製品には部品の寸法ばらつきがあるため、図面上で成立していても、現場でスムーズに組み立てられるとは限りません。**この経験から、設計時には寸法だけでなく、部品のばらつきまで考慮することの重要性を学びました。
事例2:コネクタの差し間違い
油圧の流れを開閉する電磁弁が2つあり、それぞれのコネクタ形状が同じでした。コネクタには番号を示すタグがあり、図面を確認すれば正しい接続先が分かります。
しかし、2つの電磁弁が近い位置にあったため、どちらのコネクタも、どちらの電磁弁にも接続できる状態でした。結果、量産時に作業者が差し間違いを起こし、実機では意図した操作と逆の動作をする危険な状態となりました。
対策としてコネクタの長さを変え、間違った位置には届かない構造に変更しました。「注意すれば防げる」ではなく、「間違えたくても間違えられない」設計の重要性を学んだ事例です。
事例3:工具が入らない
ある機器をサポートにボルト・ナットで組み付ける際、上側のボルト頭にトルクレンチをかけて規定トルクで締め付け、下側ではスパナでナットを回り止めする必要がありました。
しかし、下側のナット周辺が狭く、スパナが入らないという問題が発生しました。設計段階では、機器単体で組み付けられることを確認していました。しかし、実際の組立時には周囲にも他の機器が組み付いているため、工具を入れるスペースがありませんでした。
最終的にはスパナをその場で切断し、上下から2人がかりで何とか組み付けました。しかし、この構造では市場で不具合が発生した際にも、一般工具で分解できません。そこで、下側のナットに回り止め機構を追加し、工具を使わずに締め付けられる構造に変更しました。
この事例から、組立時だけでなく、製品完成後の整備まで考えて、必要な作業スペースを確保することの重要性を学びました。 いずれの事例も、「強度」や「性能」の問題ではなく、「現場で確実かつ効率よく組み立てられるか」という視点が不足していたことが原因でした。
組立性を良くするための考え方
組立性を高めるために、設計者が意識しておきたいポイントを4つ紹介します。
現場を見る
実際の組立現場を見ることが重要です。図面や3Dモデルだけでは分からない、工具の入りやすさ、作業姿勢、部品の持ちやすさなど、現場だからこそ分かることがあります。実際に作業しているところを見ることで、「ここは組みにくそうだな」という設計上の気付きも得られます。
作業をイメージする
設計段階では、実際に組み立てる順番をイメージしてみることも有効です。「この部品を先に取り付けたら、次の部品は取り付けられるか?」「工具を入れるスペースはあるか?」「この姿勢で作業できるか?」など、作業者の目線で組立手順を追っていきます。3Dモデルを見ながら、実際の作業を頭の中で再現してみるだけでも、問題に気付けることがあります。
作業者レビュー
設計者だけで判断せず、実際に組み立てる作業者に確認してもらうことも重要です。作業者は日々、実際に組立作業をしているため、設計者とは違った視点で「組みやすさ」を判断できます。「この構造、組めますか?」と聞くだけでなく、「どこがやりにくいですか?」と聞くことで、設計者では気付けない具体的な改善点が見えてきます。
生産技術へ相談
専用治具や設備が必要になりそうな場合は、早い段階で生産技術に相談します。設計が完成してから相談するのではなく、設計途中で相談することで、設計変更の自由度も高くなります。組立方法まで含めて関係者と検討することで、より現実的な設計につなげることができます。
まとめ
組立性を最優先として製品を設計する必要はありませんが、決してないがしろにはできない要素です。「組み立てられればいい」と考えて作業者に頼りすぎると、組立時間や製造コストの増加、品質のばらつきなどにつながります。
一方で、設計者のちょっとした配慮や工夫によって、組立時間や作業者の負担が大きく変わることもあります。そのため、設計段階から実際の組立作業をイメージし、現場や作業者、生産技術の意見を取り入れることが重要です。 納期に追われ、考えることが多いのが設計者ですが、図面の先にいる「製品を作る人」のことまで考えた設計を心がけたいと思います。
